No.103

 化石研ニュース No.103 
 2008年10月1日発行

 編集・発行:化石研究会事務局
 〒525-0001
 滋賀県草津市下物町1091番地
 滋賀県立琵琶湖博物館 地学研究室内
 

最終更新日:2008年10月10日


   

第130回例会のご案内

■日時:2008年11月22日(土)
13:30〜17:30
■会場:兵庫県立人と自然の博物館・大セミナー室(地図参照)
■内容:シンポジウム「日本の陸生脊椎動物化石産出層」
(世話人:三枝春生,兵庫県立人と自然の博物館)

13:30 挨拶・趣旨説明
13:40〜16:55 講演(5講演)
16:55〜17:30 全体討論
17:30 閉会

*講演会終了後懇親会を予定しています.

*運営委員会は,31日の10:30〜12:00まで行います.
運営委員,専門委員会委員,事務局の方々はお集まりください.



【第130回例会プログラム】
テーマ:日本の陸生脊椎動物化石産出層

主旨:日本においては,陸成層は海成層にくらべ分布が狭く,大阪層群などを除くと層序学・古生物学の主たる研究対象ではなかった.しかし,日本の陸成層からも近年新たな脊椎動物相の発見が相次いでいる.これらには,動物群構成要素のユニークさ,大陸では得られない海洋微化石層序・放射年代データの随伴といった面から重要なものも少なくない.本シンポジウムでは近年発見された主要な陸生脊椎動物化石産出層の堆積相・タフォノミー・古気候・古生物地理を紹介し,それらの意義を検討する.さらに今後脊椎動物化石発見の可能性のある日本の陸成層についても論議する.

13:30〜13:40挨拶・主旨説明・・・三枝春生(兵庫県立人と自然の博物館)

13:40〜14:10【講演1】下部白亜系篠山層群およびの脊椎動物化石群と堆積
  相・・・三枝春生(兵庫県立人と自然の博物館)・田中里志(京都教育大学)

14:10〜14:55【講演2】 熊本県に分布する上部白亜系御船層群の脊椎動物
  化石と堆積環境・・・池上直樹(御船町恐竜博物館)

14:55〜15:25【講演3】上部白亜系久慈層群より発見された陸生脊椎動物
  ・・・平山 廉(早稲田大学)

15:25〜15:40休 憩

15:40〜16:10【講演4】古第三系神戸層群の脊椎動物化石群と堆積相
  ・・・田中里志(京都教育大学)・三枝春生(兵庫県立人と自然の博物館)

16:10〜16:55【講演5】島根県松江市の中新統古浦層より発見された陸生脊
椎動物・・・河野重範(島根大学)・平山 廉(早稲田大学)・薗田哲平(茨城大学)・高橋亮雄(琉球大学)・仲谷英夫(鹿児島大学)・酒井哲弥(島根大学)・高井正成(京都大学)・萩野慎太郎(京都大学)・甲能直樹(国立科学博物館)・高纓S司(群馬県立自然史博物館)・青木良輔(横須賀)

16:55〜17:30全体討論
17:30    閉会

[地図]



●電車ご利用の場合 神戸電鉄「フラワータウン駅」下車すぐ
●車ご利用の場合 中国自動車道「神戸三田IC」より5分
●バスご利用の場合 神姫バス「フラワーセンター前」下車すぐ
●博物館の乗用車専用駐車場はありません。 近隣有料駐車場をご利用ください。
*人と自然の博物館のホームページ(http://hitohaku.jp/exhibits/main.html)もご参照ください



化石研究会第26回総会・学術大会報告

 2008年5月31日(土),6月1日(日)の両日,滋賀県立琵琶湖博物館において第26回総会・学術大会が開催されました.31日の午後はシンポジュウム「足跡化石の最前線 ―成果,研究の手法,そして課題―」,1日には一般講演11題 ,ポスター2題の発表がおこなわれ,58名の参加がありました.
 古琵琶湖層群が分布する滋賀県は,ちょうど20年前に現在の甲賀市から湖南市にまたがる野洲川河床から長鼻類と偶蹄類の足跡化石が大量に発見され,これがきっかけとなり現在に至る足跡化石研究が盛んになった,いわば日本における近代的古足跡学発祥の地です.ここでのシンポジュウム開催は,まさに最適な時と場を得たものといえるでしょう.
 シンポジュウムは高橋事務局長の挨拶ではじまり,岡村喜明氏,石垣忍氏,松岡廣繁氏などによる講演と犬塚則久氏からのコメントがありました.

  まず,野洲川の発掘当時から足跡化石に深く関わり,現在も精力的に各地を調査し続けられている岡村喜明氏により,日本の新生界の足跡化石研究史とこの20年間の総括ともいうべき講演がありました.過去の研究事例を紹介するだけでなく,豊富なフィールド経験から得られた調査方法のポイントや考察の観点を丁寧に解説し,現在では一般論になりつつある考え方の根拠についても解説がありました.

 石垣 忍氏からは,恐竜の足跡化石研究の最近25年の成果が,恐竜そのものに対する考え方の変化と,それに伴う新しい復元にも貢献してきた経緯について説明がありました.前肢を地面につける復元が多くみられる鳥脚類の中にも,特定の種類は基本姿勢が二足歩行である可能性が高いことや,集団行動と単独行動の傾向は恐竜の体のサイズとも関係がありそうな点など,恐竜の生態に関する熱いテーマが,今尚足跡化石に秘められていることが紹介されました.

 犬塚則久氏はコメントの中で,おもな陸生脊椎動物の四肢骨の中に見いだせる規則性により,未だ足跡化石が発見されていない束柱類の足印の形態と行跡のパターンを帰納法的に予察するとともに,じっさいそれに近いと考えられる足跡化石の調査例にも触れました.
 松岡廣繁氏は,手取層群の材料を用いて,世界的にも見解が分かれてきた生痕属の正体を明らかにしたプロセスを紹介しました.また,これらの行跡化石がどのような条件下で形成されたのか考察しました.
 
 講演によっては活発な質疑がおこなわれました.根本的な部分での問題提起としては,現在フィールドで得られている粗雑なデータも,研究者側の工夫(データをとる段階も含め)次第で有効な解析法がみつかるはず,という質問者からの指摘もありました.

 1日の一般講演でも,今回のテーマである足跡化石を含む生痕化石の発表が多くおこなわれ,質疑応答でも前日のシンポジュウムの発表内容を引用する場面が多くみられました.学会・研究会ではシンポジュウムと一般講演は別物というのが当たり前のようですが,今回のようにリンクしているのも一貫したテーマを深める意味で,たいへん良いことだと思いました.

 ほか,堆積学,古植物学,解剖学的な発表と続き,化石研らしい厚みのある学術大会となりました.今大会を準備された事務局の方々や琵琶湖博物館スタッフの方々に厚くお礼申し上げます.

(渡辺克典)



恐竜の足跡化石研究の四半世紀と今後の展望

  
石垣 忍 (林原自然科学博物館)

 1)恐竜足跡ルネサンスから25年:筆者は25年前の1983年から恐竜の足跡化石の野外調査をモロッコのアトラス山脈で始めた。当時、足跡化石の研究といえばKuhn (独) Hitchcock、Lull, Bird(米)による古典的な研究があったほか、Haubold(東独)、Demathieu、とEllenberger(仏)、Sarjeant(加)などが有名な研究者であった。当時は恐竜に対する見方が大きく変わりつつある時代でOstromやBakkerをはじめとする多くの恐竜研究者が活動的な恐竜像を発表していた。それに連動して、現地性の運動の記録でもある恐竜の足跡化石の研究が若い研究者を中心に始まった時代でもあった。これは「恐竜足跡化石研究のルネサンス」と呼ばれた。イギリスのThulborn, アメリカのLockley,やFarlow ブラジルのLeonardiらをはじめとする次の世代の研究者が精力的に調査を進めていた。1985年のInter -national Symposium on Dinosaur tracks and traces(Albuquerque、New Mexico)はその成果発表の最初の集まりであった。それから約四半世紀。現在はその次の世代が世界中で研究推進している。この間に驚くほど多くの論文や報告が出された。Ichnos (生痕化石専門の学術誌)が刊行されたし、Palaios やJournal of Vertebrate Pale -ontology その他の雑誌にも足跡化石の研究がよく掲載されるようになった。それらの中からいくつかのテーマについて概観し、筆者の研究であるモロッコとモンゴルの恐竜足跡化石についても紹介する。

 2)足跡化石の成因論: この研究は現在三つの方向がある。@足跡化石を含む堆積物の野外観察に基づくもの、A現生の動物を使ったり物理的な設定をして実験によって堆積物の変形をみるもの、Bコンピューターシミュレーション いずれも最近の進展には目を見張るものがある。

 3)足のつき方と歩様: このテーマでこの四半世紀で一番の成果は翼竜の陸上移動のスタイルが足跡化石からわかったことであろう。獣脚類については大きな進展はない。鳥脚類は四足歩行のものも二足歩行のものもいたことがわかる。角竜類、アンキロサウルス類、ステゴサウルス類についてはまだ課題が多い。竜脚類については前足のつき方や前足の第一指のあと、行跡の幅や歩角の大きさなど、新しい発見がなされている。

4)水中生活: 獣脚類については水中移動の跡が発見され、それが広く認められる傾向にある。鳥脚類についても報告されている。竜脚類については、前足だけ、または前足だけが強く印跡され後足の印跡が浅いか又は一部しかない行跡が世界各地から報告された。その解釈は水中移動とするものとアンダープリントとするものとがある。筆者としては両方あると考えている。

 5)集団行動: この四半世紀にさまざまな種類において集団行動を示す足跡化石が世界中から発見された。筆者の調査地であるモロッコとモンゴルでも同様な発見が多数あった。
6)特異な足跡化石: デイノニクス類の足跡化石ではないかと思われる獣脚類の二本指の足跡化石の発見、怪我をした恐竜の足跡化石の発見、鳥類の足跡化石の可能性があるものの下部ジュラ―上部三畳系からの発見 などがある。

 7)恐竜足跡化石研究の今後: 恐竜足跡化石は堆積構造でもあるので、「こういうものが足跡化石だ」という目をもって見始めればどんどん見つかってくる。保存の良し悪しはあるものの、おそらく河川堆積物であれば殆どの地域で足跡化石はあるだろう。そういう意味で極端に言うと、ただ単に「足跡化石が見つかった」というだけでは「ウェーブリップルが見つかった」「乾裂が見つかった」と同じくらいの示相的な意味しかない場合も出てくる。足跡を研究対象とする場合、やはりそれから過去の生物の行動や生活について何らかの新しいことがわかることが重要である。恐竜についていうならば大型の恐竜について足跡から言えることはかなりのことがわかってきており、今後は大きな発見は少ないだろう。一方、@やわらかい泥の層の上に残る小型恐竜・鳥類やそれ以外の動物の小さな足跡化石、A三畳紀からジュラ紀前期の足跡化石からロコモーションの進化の研究の二つはかなりおもしろいテーマである。



間島信男のお勧め本の紹介

 1.一般普及書(読み物)

1)『フタバスズキリュウ発掘物語−八000万年の時を経て甦ったクビナガリュウ−
1)『フタバスズキリュウ発掘物語−八000万年の時を経て甦ったクビナガリュウ−
長谷川善和[著].化学同人,DOJIN選書014.193p.(2008年3月)¥1,400円+税.

 1968年に発見され,2006年に正式に記載されたフタバズズキリュウの発見から発掘,研究の様子をわかりやすく解説している.長年,研究に携わってきた当事者でしか書けないようなエピソードも盛り込まれ,一気に読み通すおもしろさである.著者は今年で78才であるが,年齢を感じさせない筆致というか,この著者は年々文章がうまくなっている気がする. (★★

2)『ホモ・フロレシエンシス−1万2000年前に消えた人類(上)(下)』
マイク・モーウッド,ペニー・ヴァン・オオステルチィ[共著],馬場悠男[監訳],仲村明子[訳].NHKブックスNo.1112,1113.上巻206p.下巻214p.(2008年5月)各¥970円+税.

 インドネシアのフローレンス島で発見された人類化石は,果たして「島の法則」によって小型化した新種の人類のか,それとも病的なホモ・サピエンスの化石にすぎないのか?! 発掘調査チームのリーダーであるモーウッドと作家のオオステルチィの共同執筆による新種の人類化石の発掘と論争のエキサイティングな物語というのが,表面的な解説.研究者とライターの共著というのは,最近の古人類学の普及書ではよく見かけるスタイルなのだが,読者の興味を引こうとして生臭い人間ドラマを描くために,研究者の内情を暴露しあうような書き方の本が多いのにはいい加減いやになってきた.子どもたちにも安心して読ませられるような「品格」のある本を書いて欲しい.(★★

3)『化石は語る−ゾウ化石でたどる日本の動物相』
高橋啓一[著],川那部浩哉[監修].八坂書房.220p.(2008年7月)¥2,000円+税.

 日本列島にはいろいろなゾウが時代を追って入れ替わり立ち替わり現れてきた.ゾウ化石の変遷を追うことは,日本列島の哺乳動物相の成立をさぐるうえでの鍵となるのである.
 琵琶湖博物館ポピュラーサイエンスシリーズの第2冊目として刊行された本書は,著者がこれまで携わってきたさまざまなゾウ化石の発掘記を軸として,魚類,貝類,植物や足跡化石の研究成果も取り込んで,約450万年前以降の日本列島の動物相の移り変わりをわかりやすく描き出している.本の性格上,琵琶湖の生い立ちに沿って,話が進められていくが,著者のオリジナルな研究成果が随所に盛り込まれており,琵琶湖周辺地域のローカルな自然史に留まらず,日本列島全体の動物相の自然史も知ることができる楽しい本である.  (★★★

 2.一般普及書(ビジュアル本)

1)『骨から見る生物の進化』
ジャン−バティスト・ド・パナフィユー[著],パトリック・グリ[写真],小畠郁生[監訳],吉田春美[訳].河出書房新社.287p.(2008年2月)¥8,800円+税.

 何はともあれ表紙の写真を見て欲しい.漆黒のバックに浮かび上がった大蛇の全身骨格.正方形をした大型本で,一辺の長さが30cmはあろうか.脊椎動物の各分類群について,まるで生きているような姿で組み立てられた骨格標本の写真がずらりと並んでいる.ただし,この本の写真は,絵にはなっているが,図にはなっていない.本文は,生物の進化にまつわる一般的な話題の記述に終始し,写真とは完全に遊離している.表紙に魅せられて,ローマーの『脊椎動物のからだ』のビジュアル版みたいな内容を期待した古脊椎動物好きの読者は,完全に肩すかしを喰らわせられる1冊である. (

 2)『BONES−動物の骨格と機能美−
湯沢英二[写真],東野晃典[文・構成].早川書房.175p.(2008年6月)¥3,500円+税.

 出版界は密かな骨ブームらしい.黒バックに骨格の白黒写真が浮かび上がるという3)とよく似たデザインの本が出版された.前者はどちらかというと豪華本であるが,こちらはB5変形版である.写真の迫力と動物の種類では,前者に劣るが,後半に写真を元にした骨格の解説が載っているので,前者よりは骨に正対した本といえる.写真家の撮る白黒写真というのは,やはり芸術としてのそれであって,骨学のアトラスとは違うんだということをこの2冊は思い知らせてくれる. (★★

 3)『恐竜の復元』
小林快次,平山廉,真鍋真[監修]カレン・カー,タイラー・ケイラー,トッド・マーシャル,小田隆,ゲイリー・スターブ,田渕良二,徳川広和[イラスト・造形].学習研究社.191p.(2008年9月)¥4,500円+税.

 前半は研究者による最近の研究成果や復元の歴史,アーティストによる作品制作過程の実際が紹介されている.後半は7人のアーティストの作品を掲載し,そこに描かれた古生物について新進の研究者7名が解説のコラムを書いている.こちらはオールカラーのビジュアル本である.復元の科学的方法論をまとめた本では,あくまでない.(★★



『恐竜学 進化と絶滅の謎』
DE Fastovsky and DB Weishampel 著 真鍋真 監訳丸善、496頁、定価10,000円 

 本書は、18章からなり、恐竜の起源、その進化、分類、そして絶滅まで事柄が網羅されており、最近の恐竜学の研究がどこまで到達しているかが理解できる。その中で、特に興味があるのは、5章の「恐竜の起源」、13章の「鳥の起源」、14章の「鳥の初期進化」、15章の「恐竜の体温調節」、18章の「白亜紀―第三紀境界大量絶滅」などである。15章では、骨の組織学、生理学、生化学といった分野からの研究のアプローチが興味深い。本の価格が高価なのが、難点である。   (三島弘幸)



各地の博物館特別展

■山形県立博物館 「庄内の自然−大地と生き物の移り変わり」 9/6〜11/23
  庄内地方の地質的な成り立ちや生き物の移り変わり、人との関わりについての資料を展示

■群馬県立自然史博物館 企画展「きれいで不思議な貝の魅力」 9/27〜11/24
  貝の進化や不思議な生態、美しい貝殻など貝の魅力を多くの標本や生体展示で紹介。

■神奈川県立生命の星・地球博物館
  「箱根火山〜いま証される噴火の歴史」 7/19〜11/9

■国立科学博物館 企画展「標本の世界」 9/13〜11/9
  標本とは何か、標本を集めることによって何が分かるか、そして、標本がどのように活用されているかを多くの皆さんに知っていただきたいと思います。

■糸魚川フォッサマグナミュージアム 特別展「世界ジオパークをめざして−糸魚川のすばらしい地質遺産−」

■豊橋市自然史博物館 特別企画展「シーラカンス〜ブラジルの化石と大陸移動の証人たち〜」 9/19〜11/16
  世界初公開!世界最大のシーラカンス化石の復元骨格(全長3.8m)
  ブラジルで見つかった多くの魚類化石の展示とあわせて大陸移動について紹介します。
■岐阜県立博物館 特別展「骨のあるやつ」 9/19〜11/16
 多種類の動物の骨格標本を通して、動物が進化の中で獲得した骨の不思議や形の美しさを紹介。

■福井市自然史博物館 特別展「ふくい大地の物語−地質景観百選−」  7/19〜10/26
  世界規模を誇る東尋坊の柱状節理や若狭湾を飾る蘇洞門の花崗岩など、福井はすばらしい地質景観の宝庫です。今回の特別展では、これらの景観を形づくる岩石から、それぞれの大地の壮大な物語をひも解いていきます。

■大阪市立自然史博物館 特別展「地震展」 10/25〜12/7




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