化石研ニュース
No. 85

最終更新日:2004/10/22

   
2003年9月15日発行


会長再任に当たって


真野勝友

 金沢大学で行われた第21回(通算119回)化石研究会総会で当会会長に再選され、あと1期2年のお務めとなりました。当会は運営委員会と事務局により運営されており、その点会長の仕務はその成り行きに任せ、求めに応じて対応すればよいと言う事になります。昨年度は思わぬトラブルがありましたが、それを乗り切って新しく発足した事務局と運営委員会の下でこれまで以上に活発な会の運営が行われる事を期待し、そのためのできるだけの協力をしたいと思っています。

 研究の面では会員の皆さんが創意工夫をし、独創的な古生物学の研究と発表の場ができればいいなと期待しています。その意味で、総会と例会の場の持ち方をそれぞれ特色を持たせるというのも一つの考え方だと思います。会員の皆さんとともに、これからの当会の発展を支えていきたいと思います。



第21回総会・学術大会の報告

  第21回総会と学術大会は6月14日、15日、金沢大学理学部で開催されました。田崎和江会員とその研究室の皆さんのご尽力で、地域性と国際性、両方に関わる多くのテーマについて研究成果の発表があり、大変充実した会となりました。特別講演として金沢および北陸地域に関係する3つの講演をして頂きましたが、日本の代表的な焼き物である九谷焼にまつわる話(中道俊久氏)、温泉とトウフの環境学(四ヶ浦弘 氏)、最近の日本における恐竜ブームの牽引役となっている福井の手取層群の恐竜化石発掘の話(後藤道治氏)とそれぞれたいへん興味ある内容でした。

 特集テーマ「バイオミネラリゼーションとバイオレメディェーション」は田崎会員の研究室のメンバーを中心とする若い方々の研究、特にバクテリアにまつわる諸問題についての精力的な研究成果の報告がされた。いろいろな視点と発想による研究内容は大変斬新で魅力的に思われました。2日日には一般講演が行われ、会員により10題の発表があり、それに引き続き総会議事が行われました。

 総会議事のくわしい内容については化石研会誌36−1号に掲載されますが、2年に一度の役員改選が行われ、運営委員会の推薦に基づき、新しい役員が選出されました。前期の後半に生じた会の運営上の問題と、事務局を担当していた日大松戸歯学部の会員が仕期中途で事務局の仕事を投げ出すという前代未聞の無責任な対応によって、会の運営の継続と今向の総会・学術大会の開催も大きな困難を抱えましたが、多くの会員の皆さんのご尽力で充実した会を実現できました。新しい体制で出発した今期、ぜひいっそうの発展を期待したいものです。

 なお、今回の参加者はあわせて63名で、最近ではもっとも多数の参加となりました。金沢大の皆さんに厚くお礼申し上げます。

 



−次回例会の予告−

 日程:11月29日(土)〜30日(日)
 会場:林原自然科学博物館ダイノソアファクトリー(東京都江東区有明)

 ダイノソアファクトリーは、林原自然科学博物館とパナソニックが新しく共同で作ったデジタルネットワークミュージアムです。ここでは『恐竜を中心とした化石研究の過程を最先端のデジタルネットワーク技術を駆使した展示手法』をみることができます。

 29日には、午後2時からこの展示をまず見学し、その後に会員でもある林原自然科学博物館の鈴木 茂さんから「恐竜研究の最前線 モンゴル共同調査の10年」と題するご講演をしていただきます。この日は懇親会も企画しています。

 30日には化石研らしく方法論や研究の思考過程などに関する学習会、あるいはセミナーといったようなもの企画しております。話題提供者として島本昌憲さん(東北大学・理)と甲能直樹さん(国立科学博物館)に「生物の系統関係」に関する問題提起をしていただきます。

 ここでは午前中いっぱい時間をとって議論したり勉強したりしながら今後の個人や化石研の活動に結び付けていけるような会にしたいと思っています。
 なお、例会の詳細につきましては、次号の化石研ニュースでお知らせいたします。



質 問 箱
 質問 北林栄一

 化石に関して、「先取権(プライオリティ)はどうすれば認められるのですか?どんな基準・きまりがあるのですか?化石に関する「先取権」といっても発見から新種の記載までいろいろな段階のものがあると思いますが、それらは例えば新聞発表、研究会での発表(口頭)、学会発表(要旨)、報告、記載論文など、それぞれどの段階で認められますか?
 
 質問回答 事務局

 先取権は新しい学名をつけるときには問題になりやすいので、国際動物命名規約でしっかりと決められています。2000年に発行された第四版をみますと、 章3「公表の要件」と条8「公表したことになるもの」にご質問のことが記されています。この規約は日本語が難しいので意味を書きます。
 
 8.1.満たすべき要件
 8.1.1.公的で永続的な科学的記録を提供する目的で発行されたものに載っている必要があります。
 8.1.2.最初に発行された時点で、無料でも有料でもよいのですが入手するのが可能なものでなければなりません。
 8.1.3.長期保存することを目的に複数部がひとつの版でつくられているものに載っている必要があります。
 中略
 8.4.
1986年よりも前に製作された著作物で、公表されたとみなすには当時ふつうにあった凸版印刷か、オフセット印刷、あるいはゼラチン版か謄写版によって紙に印刷したものでなければなりません。
 8.5.
1985年より後で2000年よりも前に制作された著作物は、
 8.5.2.命名法的行為が永続的な科学的記録を目的としているという、著者自身による明言を含むこと。さらに、 8.5.3.その著作物が、同時に入手可能な複本からなり、ひとつの版として製作されたことを言葉で明言されていること、が必要です。
 条9.
 公表したことにならないもの
 9.1.1930年よりも後の、なんらかの方法によって現物そっくりに複製された手書き
 9.2.写真そのもの
 9.3.校正刷り
 9.4.マイクロフィルム
 9.5.なんらかの方法で作られた録音そのもの
 9.6.標本のラベル
 9.7.図書館やその他の文書館などへ予め供託されていたとしても、公表されなかった調査区物の注文による複本
 9.8.電子信号として配信される文書や描画
 9.9.集会、シンポジウム、コロキウム、会議なぞの参加者を主たる対象として発行される場合の記事、論文、ポスター、講演の文書、その他の類似物の要旨 勧告9Aおもに参加者に対して発行する目的で学会発表論文の要旨を投稿する著者は、そのような著作物に学名や動物命名法に影響を与えそうな行為が意図せずに公表されてしまわないにようにするべきである。

 以上からわかるように、まず口頭発表はだめです。印刷物、それもみんなが手に入れることができるものでなくてはなりません。講演要旨のようなものに新種の記載をいれることは、むしろ勧告でさけるべきこととして指摘されています。

 要は、みんなになるべく知らせることが大切なわけです。最低、英語で、学術雑誌に載せる必要があります。その受理された日が有効な日です。さらに、その雑誌はその分野の研究者なら世界中の人が知っているようなものに記載するのが科学者としての責任と義務だと思います。


[化石の特別展情報]

ジュラシックパーク・インスティチュートツアー
 7月19日−10月26日
 会場 国立代々木競技場オリンピックプラザ特設会場
 http://www.jurassicparktour.com/top.html



ディスカバリーパーク焼津
 特別展 「たのしい化右」
 10月9日 〈木〉〜11月24日(月・祝)
 〒425−0052 静岡県焼津市田尻2968−1
 ディスカバリーパーク焼津
 電話 054-625−0800



三重県立博物館 
 開館50周年企画展 「三重のゾウ化石」
 7月8日(火)−10月19日〈日)

 三重県では1918年(大正7年)に最初のゾウの化石の産出が知られてから、県内の各地から数多くの資料が発見されてきました。それらはステゴドンという古代ゾウのなかまで、大型のミエゾウと小型のアケポノゾウとよばれるものです。
 三重県立博物館の開館50周年記念事業として、多くの方の御協力を得てそれらのおもなものを一堂に集めて展示します。 (同館のチラシより)

 〒514−0006 三重県津市広明147−2
 三重県立博物館
 電話 059−228-2283
 http://www.museum.pref.mie.jp/miehaku/



鳥羽水族館
 企画展 「ポーンズ博士のホネ研究所」
 7月12日(土)〜11月30日(日)
 展示内容
 ◆骨の概要:骨のつくりとその驚くべき働き(パネル)◆骨を持たない生きものたち:カニや昆虫など、外骨格にまつわるお話(標本とパネル)◆魚類:初めて骨を持った彼らはどう進化したのか/骨が透けて見えちゃう魚グラスキヤツトの生態展示(標本・パネル・水槽)◆両生類・爬虫類:陸に上がるための工夫(標本・パネル)◆ほ乳顆:陸上から再げ海へと還っていった動物クジラやジュゴン、その特殊性や陸上にいたなごり〈標本・パネル)◆ポーンズ博士のホネ工房:作業工房ジオラマや魚類・透明化標本、骨格標本の作り方など◆試してみよう!:バラエティー豊かな水生生物のレントゲン写真など。 〈同館のホームページから)

 〒517-8517 三重県鳥羽市鳥羽3−3−6
 鳥羽水族館
 電話0599−25−2555
 http://www.aquarium.co.jp/index2.html



多賀町立博物館・多賀の自然と文化の館
 特別展 「ゾウのはじまり」
 8月2日(土)〜9月2名日(日)

 ゾウは現在3種類しかいませんが過去には世界各地から160種類あまりの化石が知られています。多賀町で見つかるアケポノゾウ・ナウマンゾウもその中の一つです。その最初の祖先は20年ほどまえまでメリテリウムという大きな犬くらいの大きさの動物−種類だけが知られていました。最近新たな化石が次々と見つかり、ゾウの仲間が中〜小型動物だった時代の進化の様子が大分わかってきましたが、それらの化石は日本ではまだ公開されていません。そのうちの2種、ヌミドテリウムとフォスファテリウムを展示します。また、ゾウのその後の進化を示す歯や頭、顎の化石を展示します。(同館のチラシから)

 〒522−0314 滋賀県犬上郡多賀町四手976−2
 多賀町立博物館・多賀の自然と文化の館
 電話 0749-48-2077
 http://www.biwa.ne.jp/~taga-mus/



きしわだ自然資料館
 「キシワダワニとそのなかまたち〜化石でたどる関西の350万年〜」
 10月21日 〈火)〜12月23日(祝)

 鮮新世から現在に至る、関西の野生動物盛衰史を、爬虫類やほ乳類の脊推動物化石を中心に展示し、ワニをはじめとする動物たちのダイナミックな変遷史を体感できるような展示を行う。期間中、ミュージアムトーク・巡検などを実施。〈同館の風間さんから紹介していただきました)

 〒596−0072 大阪府岸和田市堺町6−5
 きしわだ自然資料館
 http://www.city.kishiwada.osaka.jp/sosiki/k-nature/
 電話 0724−23−8100



徳島県立博物館
 企画展 「アンモナイトのすべて」
 10月17日(金〉 〜11月24日〈月)

 アンモナイトについて,化石の産状と保存状態,体と殻のつくり,殻の巻き方と生息姿勢,アンモナイトの進化などなど,その「すべて」を紹介します。世界最大のアンモナイト(レブリカ)も,披露します。
(同館の両角館長・中尾さんから紹介していただきました)

 一般200円,高校・大学生100円,小・中学生50円
 〒770−8070 徳島市八万町向寺山文化の森総合公園内 徳島県立博物館
 電話 088-668-3636
 http://www.museum.comet.go.jp.fukyu/moyooshi.htm



北九州市立自然史・歴史博物館
 特別展「恐竜時代の生き物たち」
 9月19日(金)〜10月13日(月)

 北九州には白亜紀前期の湖の地層があり、恐竜をはじめカメやワニ、そして多くの魚類化石が発見されています。その環境を復元したものが当館のエンパイラマ銀白亜紀ゾーンです。
 今回の展示では、同じ白亜紀前期の地層である手取層郡(北陸地方)の研究成果によって発見された恐竜、植物やほ乳類、爬虫類、魚類などの化石を展示し、恐竜が生きた白亜紀の世界と生物を紹介します。 〈同館ホームページより)

 〒805−0071 福岡県北九州市八幡東区東田2-4-1
 北九州市立自然史・歴史博物館
 Tel 093-681-1011 Fax 093-661-7503
 http://www.kmnh.jp/event/index.html



出水市ツル博物館
 企画展「マンモス復活大作戦!」
 7月】9日(土)〜10月13日(月・祝)
 http://www.city.izumi.kagoshima.jp/izumi08/default.asp



[図書紹介]

◆ステイーヴン・ジェイグールド:ワンダフル・ライフ パージェス頁岩と生物進化の物語.ハヤカワノンフィクション文庫.940円.
◆速水 格ほか:古生物の科学1・古生物の総説・分類.朝倉書店.10,000円.
◆棚部一成ほか:古生物の科学2・古生物の形態と解析.朝倉書店.10,000円.
◆大八木和久:化石を掘る.筑摩書房.950円.
◆関村利郎ほか:生物の形の多様性と進化 遺伝子から生態系まで.裳華房.4,300円,
◆クローディヌ・コーエン:マンモスの運命 化石ゾウが語る古生物学の歴史.新評論.3,800円
◆西田正規ほか:人間性の起源と進化.昭和堂.2,400円.
◆Zollikofer :Virtuial Reconstruction, A Primer in Computer - Assisted Paleontology. 10,822円.
◆Michael O. Woovurne : Late Cretaceous and Cenozoic Mammals of North America,
Biostratigraphy and Geochronology. 6,423円.



[事務局の顔ぶれ]

 この度あらたに事務局が滋賀県立琵琶湖博物館地学研究室内に移りました。そこで事務局をあずかるメンバーの自己紹介をします。何卒よろしくお願いいたします。なお次号からは、会員の紹介などを掲載していきたいと考えています。

【事務局長】
高橋啓一 (滋賀県立琵琶湖博物館)
 現在の研究テーマは「鮮新一更新世の日本列島の哺乳類の起源と変遷史」です。力不足ではありますが、会員の皆さんと事務局が一丸となって、もっと活動的な化石研になるよう努力したいと思っています。

【庶 務】
阿部勇冶 (滋賀県多賀町立博物館・多賀の自然と文化の館)
 シカ化石をテーマにしていたはずですが、近ごろではコウモリの生態を調べています。よろしくお願いします。

神谷英利 (京都大学 大学院理学研究科)
 化石研には大学院時代に入会して以来約40年になります。10余年間運営委員長を務めました。専門は化石硬組織の微細構造です。今後ともよろしくお願いします。

田中里志 (京都教育大学 地学・環境学)
 現在の研究テーマは「陸水成堆積物の堆積学的な研究」で、特に古土壌(化石土壌)堆積物から解析する古環境、ならびに環境変遷史に興味があります。化石研究会がさらに発展するようにその一躍を担いたいと思います。微力ではありますができる範囲で早力いたします。

【会 計】
小西省吾 (滋賀県みなくち子どもの森自然館)
 アケボノゾウの化石を研究テーマにしていますが、最近は当館で普及活動ばかりです。どうかよろしくお願いします。

【ニュース編集】
岡村喜明 (滋賀県足跡化石研究会)
 地元の古琵琶湖層から産する足跡化石の研究のためにタイの熱帯雨林でアジアゾウ、サンバー、ホエジカ、ウシ、トラ、ヤマイヌ、クマなどの足跡と生態を追っています。このニュースの編集を担当することになりました。興味深い情報をお願いします。








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