化石研ニュース
No. 86

最終更新日:2004/10/22

   
2003年1月20日発行



化石研究会の活性化を目指して


運営委員長 島本昌憲

運営委員長 島本昌憲 明けましておめでとうございます。新年を迎え化石研究会のますますの発展を祈念いたします。

 昨年6月の総会で、運営委員、事務局員、編集委員が改選され、新体制での新たな活動がスタートしました。不慣れなこともあり、必ずしもスムーズにスタートを切れた訳ではありませんでしたが、昨年11月の例会時の報告で徐々に軌道に乗ってきている様子です。

 今期の課題は、会員の皆様から積極的な情報発信をしていただき、化石研究会全体の活性化を目指すことだと考えております。必ずしも有効な方策ではないかもしれませんが、例会時に確認した重点事項は次の2点です:

@化石研究会ホームページの充実、A“化石研レポーター”からの情報発信第一点は、約2年前から化石研究会のホームページを大幅に更新し、デザイン、内容とも新しくなりました。今期はこれをますます充実させ、会員の皆様からもどんどんアクセスしていただき、これを利用した情報交換の場になればと思います。ホームページを開設することは役員の方々が中心となって実現しましたが、これを有意義に育てるのは会員の皆様です。

 第二点は、ホームページの活用とも関連して、化石研究会を有意義な情報交換の場にするためには、有益な情報発信が必要です。そこでこのたび、化石研に関連する主な分野の会員に“化石研レポーター”となっていただきました。提供いただく主な情報は、おもしろい論文や書籍、研究会や学会の紹介、化石産地や化石情報の提供などですが、これに限らず、興味深い情報をどんどん提供いただき、ホームページや化石研ニュースを通じて会員の皆様にお知らせしていくつもりです。“化石研レポーター”は特定の会員ではありませんので、皆様も遠慮なく“レポーター”として情報を提供してくださいますようお願い申し上げます。

 新役員の皆様とご一緒に旗振り役を務めたいと思います。皆様のご協力で新たな化石研の一歩を踏み出せればと思います。よろしくお願いいたします。

 化石研究会ホームページ http://www.kaseki.jp/



化石研究会第120回例会報告

 昨年の11月29日(土)〜30日(日)に第120回例会が開催されました.今回は会場として東京都江東区にあるパナソニックセンターの会議室をお借りして行いました.

 29日は午後2時からパナソニックセンター内にある林原自然科学博物館「ダイノソアファクトリー」の見学をさせていただきました.ダイノソアファクトリーは化石研の会員が中心になって活動している林原自然科学博物館が2002年秋にパナソニックと共同で立ち上げた展示場です.ここでは林原自然博物館が行っているモンゴルでの恐竜研究がその過程を通して見ることができるよう展示に工夫がされています.今回はこの会場の見学を2時間かけて行いました.

鈴木 茂会員の講演 懇親会
島本昌憲会員の講演 甲能直樹氏の講演

 その後に会員でもあり林原自然科学博物館で研究をされている鈴木 茂 会員に「恐竜研究の最前線,モンゴル共同調査の10年」と題してこれまでの林原自然科学博物館がモンゴルで行ってきた調査の成果について講演していただきました.講演の中心になったのは,林原自然史博物館の調査によってモンゴルから発見された数々の獣脚類恐竜と鳥との関係です.講演ではそれら保存のよい標本を映像で紹介してくださいました.
講演終了後はパナソニックセンター内でフランス料理の鉄人のお店「ラ・ロシェル」から届いた料理をつまみながら懇親会を行いました.

 翌日は化石研運営委員長の東北大学総合学術博物館の島本昌憲会員と国立科学博物館地学研究部の甲能直樹氏に生物分類における分子系統学のもつ問題について共通のテーマで講演をお願いしました.

 島本会員からは「分子系統学の功罪と生物分類」と題して島本会員が研究で対象にしている二枚貝を例にとって分子系統樹で示せる限界と形態情報の重要性についての講演がありました.

 続いて,甲能氏からは「形態形質を用いた系統推定における誤謬」と題して講演していただきました.甲能氏は哺乳類の水生適応を研究課題のひとつとされていますが,今回の講演ではクジラ化石を例に有効な分子系統学的方法で得られた系統樹をつかってもういちどマクロの形態を見直すことで今まで気づかなったことがわかることや,その新しく気づいたことと分子から得られた結果を癒合させることでより正しい系統樹が編むことができるといったお話がありました.

 今回は,博物館の見学をしたり,十分な時間をかけて講演を聞いたり討論をしたということを行いましたが,活発な質問も多くあり例会になったと思います.ご協力いただいたパナソニックセンターおよび林原自然史博物館の皆様にお礼申し上げます.なお,講演の具体的な内容は次号の化石研会誌に掲載される予定です.(事務局)



−総会の予告−

日程:2004年5月22日(土)〜23日(日)
 会場:滋賀県立琵琶湖博物館(滋賀県草津市)

 化石研総会のお知らせと講演の募集

 総会では一般の講演を募集します.
(発表時間は一人15分〜20分程度,口頭,ポスターどちらもできます)
 ○講演演題の申し込み 締切り:3月31日(水)
    申込み方法:郵便あるいはメールで事務局まで

 ○講演要旨の締切り4月30日(金)
    講演題目,発表者(所属),要旨をA41枚に収まるようにしてメールあるいは完成した原稿を郵送で事務局までお送りください.

  送り先:〒525-0001  草津市下物町1091 滋賀県立琵琶湖博物館内
         化石研究会事務局
         


図書・文献紹介

 『埋没の危機のある露天掘り炭田の古代の動物行跡』
 

Science,vo1,301,p.746.2003.8.8 週間ニユース
A1abama州Birginghamの北西約50kmのところにある石炭紀(約3,1億年前)の露天掘り炭田で、2000年に爬虫類の行跡が発見され、炭鉱の所有者は出身高校の理科の先生に知らせた。この教師はこの地方の化石愛好者グループ(後にA1abama州古生物協会を設立)に所属していたため、この場所で岩石片の山から1600個の化石を合む岩片を採集した。

これらには爬虫類のほか、浅い内湾に生息した両生類や多足類、カニ類、魚類などが合まれ、最初の爬虫類の出現環境を考えるための貴重な資料となっている。グループは研究会で、これらの化石の写真やカタログを作り、専報にまとめる準備を進めている。とくに研究会は、website(bama.ua,edu/-rbuta/monograph)に2000個以上を開示している。

炭鉱の所有者は、2000年以降約3haの場所を埋め立てから残して、化石の研究者の便宜を計ってきたが、この土地の所有者が公害の原因となることを恐れ、州委員会に埋め立てを申請したため30日以内の埋め立てを支持してきたが、研究者たちは露頭の保全を希望し、炭鉱会社は柵を設けて産地の保全を考えている。採集した標本1600個は最終的に博物館に寄贈するとのことである。なお保全の希望が受け入れられなければ、巡回裁判に提訴することを考えている。(大森昌衛)

 砂川一郎著:『結晶一成長・形・完全性』 

A5,364頁、7500円十税、共立出版、2003,1

著者はかって化石研究会で炭酸塩鉱物の結晶成長について講演されらことがある。その後東北大学及びロンドン大学(1958-1960)で長年研究された成果を本書にまとめている。

その内容は、序論、結晶の示す形、結晶成長、多面体結晶の形を決めるもの、結晶面の表面マイクロトポグラフ、単結晶の完全性・均質性、結晶の規則的共生、多結晶集合体の形・組織の8章にわけて記述している。

第一編では、結晶の基本描像を解説している。第二編は結晶研究のケーススタディとして、ダイアモンド、水晶、黄鉄鉱と方解石、気相成長でできる鉱物、交代作用や変成作用でできる結晶、生命活動で作られる結晶の6章によって結晶成長の複雑・複合系への応用を説いている。

なかでも第三章で、結晶の界面の開設から渦巻成長を説くくだりや、第五章の渦巻きのステップヤエピタキシー成長を説くくだりは生体の硬組織研究の基礎として興味がある。とくに第二編の生命活動で作られる結晶では、バイオミネラリゼーションでできる結晶を六つの型にわけて表示し、水酸基アパタイト、CaC03の多型鉱物、磁鉄鉱の三つについて解説している。

また、排泄作用でできる結晶と生体における無機塩の貯蔵庫の役割を果たす結晶のほか、存在の理由の解明されていない結晶について触れていることが注目される。

巻頭に四頁にわたるカラー写真を添えているほか、巻末の付録には結晶軸の取り方、14Bravis格子と7結晶系、結晶面と晶帯の指数づけ、対称の要素と記号、32晶族(点群)に含まれる対称の要素と一般面のステレオ投影の項目による付表を補っているほか、各章ごとの引用文献と参考文献をあげている。

生体鉱物の結晶学について座右の参考書である。本書は近くCambrige Univ. Pressから英訳版が出されるとのことである。(大森昌衛)





質 問 箱
 質問 渡辺克典(大阪府堺市)

 日本では昔から色々な足跡化石が知られていたようですが,1980年代後半から哺乳類や鳥類の足跡化石発見が続き,急激に研究が進んだように記憶しています.恐竜の足跡化石について従来から欧米で研究が進んでいたところに,石垣(1988)によりわが国初の体系化が試みられ,「ゾウの足跡化石調査法」編集委員会(1994)やこのたびの岡村・高橋(2003)等により,特に新生代の哺乳類足跡化石については詳細な調査法が確立されたように思われます.そこで気になるのですが,外国では恐竜はともかく鮮新・更新統から発見される哺乳類や鳥類の足跡を詳細に研究した例というのはあるのでしょうか.また,後背湿地堆積物などの生物攪乱(Bioturbation)要因として,哺乳類や鳥類がどれだけ認識されているのでしょうか.

鮮新・更新統の足跡化石は,インドネシアや中国においても日本人研究者が中心になって調査を進めているように思いますし,現在のところ,日本の「お家芸」的な分野だと考えてもよいのでしょうか.もし日本が新生代の足跡化石の研究をリードしているとすると,当然世界中で日本の文献が引用されることになると思うのですが,サーキュレーション等の事情を考えると,総括的な内容の英文のテキスト的な出版物を,古生物学の書物を多く刊行している欧米の出版社から出す計画などが持ち上がってもよいと思うのですが,そういう動きはないのでしょうか.自分自身は研究せずに疑問だけ提示するのはお恥ずかしいのですが,真新しい労作が会誌に載っていたのを見て,思わず質問してしまいました.
 
 質問回答 岡村喜明

 ご質問の中にわが国の足跡化石の調査法が確立されたとのご意見が記されていますが、私は以下に記すようなことからまだそれは程遠いと考えています。

現在私が把握している国内の新生代からの足跡化石産地はおおざっぱに数えても40数カ所をくだりません。そして、一時のような増加ではありませんが、いまでも徐々にその産地が増えつつあります。その産地の多くを調査、観察させてもらって感じることは「石になった足跡」(岡村:2000)の53頁に記したように発見された時点での足跡化石の良否判定の問題です。すなわち印跡動物の足・蹄などの形態的復元と行動力学的なアプローチが可能か否かがたいへん重要な点で、これらの解析に耐えるような標本でないと古足跡学は進まないのです。幸いなことに国内の鮮新・更新統の足跡化石は、その印跡層が軟らかく、かつ数が多いことでいくつかを犠牲にして水平、垂直断面から堆積構造を観察することが可能ですが、中新統やそれより古い地層の足跡化石は、この観察が容易ではありません。したがって原足印と言うべき印跡動物の足・蹄の形態や動きを忠実に復元できる可能性は減少します。その場合、上面から見た足印口の形態のみからその印跡動物を決めてしまうと言う危険性があります。このことは内外のいくつかの文献を見ても強く感じます。

私たちは、このことが解決できるかを古琵琶湖層群の印跡層で、地質時代の変形や浸食など、露出してからの変形や浸食などの例を数多く観察してずっと考えてきました。この足跡化石がもつ特性と言うか限界と言うか、この点がたいへん難しいことでいまだ模索の段階です。そのひとつとして、岡村・高橋らは東南アジアの野生動物の足跡の着き方とその消長について、地形、気候、環境のほか生態的なこととの関連を探っています。このことは足跡化石のタフォノミーの問題と、あらゆる動植物(生態系)の中で足跡がどのように看けられ変化していくかだけでなく、国内の新生代の古環境下でいかなる生態系が繰り広げられていたかをも推定する手段になればと考えたからです。

ご質問の回答にならないかもしれませんが、現在の国内の古足跡学の現況を私なりにまとめました。したがって現段階では欧米、アジア諸国の研究者向けにこのことを英文で出版するのは困難ですが、いずれはやらねばならない課題です。


[関連学会のお知らせ]

生痕研究会
 生痕研究会(旧称:生痕化石連絡会)は、Prob1ematicaを発行し、毎年1回、地学団体研究会の総会時に、夜間小集会またはシンポジュームで研究交流や講演会などを実施しています。このほか、毎月、束京池袋の地団研本部で、束京周辺在住の有志による学習会を行っています。ここ数年はHaentzsche1(1975)の教科書"Treatiseon1nvert on Invertabrate Pa1eonto1ogy part W (Supp1ement 1, Trace Fossi1)"の翻訳を行っており、アルファベット順の生痕属の記載のうちPのところまで学習しました。また、生痕学に関する論文の載っている可能性のある内外の雑誌を手分けして報告したり、参加者間の研究交流をしています。さらに、生痕研究の普及活動も行つています。

入会申し込みは下記の係りまで
会員・会計係:佐瀬和義
〒179-0072東京都練馬区光が丘1-6-1-906
TEL03-3976-0872.郵便振替口座番号:00140-6-142781
年会費:500円 註:(Prob1ematica No.13から転載)


「第7回 マリンバイオテクノロジー学会大会」
 (マリンバオイ北海道2004)
主催:マリンバイオテクノロジー学会
会期:平成16年6月17日(木)-19日(土)
会場:北海道大学学術交流会館およびクラーク会館(札幌市北区北8条西5丁目
発表申し込み締め切り:平成16年3月15日(月)(必着)
予稿原稿締め切り:平成16年4月15日(木)(必着)
発表形式:口頭発表(質疑含み15分、OHP使用)、ポスター発表

一般講演のセッション:以下の9セッションを予定しております。
1.微生物2.微細藻3.海藻・付着生物4.魚介類5.犬然物・未利用資源6.バイオミネラリゼーション7.マリンゲノム8.環境・低温適応9.その他

参加・発表登録申し込み方法:参加をご希望の方は申込者氏名・所属および連絡先(住所、電話番'号、メールアドレス)を、発表をご希望の方は申し込み者氏名・所属および連絡先、発表希望セッション、希果発表形式、発表者氏名・所属略記(連名の方全員)、演題を明言己の上、下記の申し込み先までお申し込み下さい(電子メールをご利用下さい)。なお発表者は学会会員に限らせていただきます。詳しくは大会ホームページをご覧下さい。http://wwwsoc.nii.ac.jp/jsce3/admin/03120.htm1

参加登録費:(平成16年3月31日(水)まで) 会員般5,000円、学生3,000円、非会員一般9,000円、学生4,000円
(平成16年4月1日(木)以降)会員一般7,000円、学生4,000円非会員一般10,000円、学生5,000円
(情報提供:.三島弘幸)



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