化石研ニュース
No. 88

最終更新日:2004/10/22

   
2003年7月25日発行



化石研究会第22回総会・学術大会報告


 去る5月22日,23日の両日,化石研究会第22回総会・学術大会が滋賀県立琵琶湖博物館セミナー室を会場に開催されました.22日は,まず中島経夫氏による特別講演「琵琶湖の生い立ち・人間の営みと魚の関係」がありました.中島氏は咽頭歯化石を材料にコイ科魚類の起源と進化について研究されておられ,講演は日本海のオープニングとそれに応答したコイ科魚類の変遷,古代〜歴史時代にかけての魚類と人間との関わり,現在の魚類の分布とその歴史的背景といった幅広い内容でした.地質時代から歴史時代そして現代まで,時間軸にそって連続的に情報を整理することで解釈される学際的な視点のお話しは大変興味深いものでした.

 この後,引き続き4件の一般講演がありましたが,いずれも生体鉱物や哺乳類の歯,二枚貝などの硬組織の微細構造に関する話題でした.化石を理解するうえでミクロな視点がいかに重要であるか,これらの議演では様々な材料をとりあげて紹介されていました.2日目は午前から午後にかけて7題の一般講演があり,お昼前の時間には総会議事が行われました.

 2日目午前中の一般講演は,現生と化石のクモヒトデを材料に分布や生息環境を議論した石田氏ほかによる講演や笹川氏ほかによる魚類エナメロイドの形成に関する講演など,現生の生物を材料に古生物の生態や進化を検討した講演が続きました.特に島本会員の研究室の若手メンバー(神谷氏,林氏)による,カワニナの遺伝的変異と形態,地理分布に関する2題の講演は,多くの質間や意見が寄せられ注目を集めていました.

 また,午後の一般講演は,古脊椎動物に関連する3題の講演がありました.笹川氏ほかによるレッサーパンダの歯化石についての講演,犬塚氏によるパレオパラドキシアについての講演では,化石からの情報を用いて合理的な解釈を導く難しさと面白さを具体的に示されていました.また,岡村氏ほかによる講演は,足跡化石を理解するために東南アジアで取り組んでおられるフィールドワークを紹介されたもので,迫力のあるスライドと標本展示で大変臨場感のある講演でした.

 総会議事では,事務局から昨年度の活動内答と会計決算についての報告,今年度の活動予定案,予算案,運営体制案(各役職は前年度からそのまま継続)についての提案がなされ承認されました.なお,会計監査から収入を上回る支出があるとの指摘があり,会費の納入率を上げる必要性があることが確認されました.

 今回の会場となった琵琶湖博物館は,眼前に琵琶湖を望む烏丸半島に位置し展示内容も琵琶湖を軸に自然史から民俗まで幅広い内容となっています.また,発表は特別講演をはじめ,一般講演についても琵琶湖周辺をフィールドにした研究や琵琶湖産の材料を扱ったものが多く含まれていたので,参加された方はまさしく琵琶湖を満喫されたのではないでしょうか.また,今総会・学術大会の開催にあたっては京都教育大学学生諸氏と琵琶湖博物館地学研究室スタッフの皆様に大変お世話になりました.記して厚くお札申し上げます.

【阿部勇治記】



随想
『アメリカ大学研究生活46年』(2)


南カロライナ大学 名誉教授 渡部哲光

 当時は日本人のドル持ち出しが非常に制限されていて,アメリカ入国の際は25ドルしか許されていなかったから,これは一面では助かった.ともかく,当時の規則によって外務省に出かけて旅券の交付を受け,岸信介外務大臣の自筆の署名を貰ったのが1957年1月26日.2月1日には,名古屋の米国領事館で背の高い女性の副領事に,旅券にヴィザのスタンプとサインを貰い,Have a nice tripという言葉に送られて外に出た.この時はアメリカの役人はさすがに人当りが良いなと思った.その足でやはり名古屋の日本交通公社に立ち寄り航空券を買った.かくして私は1957年2月5日夕刻,家族,親戚,友人などに送られて9ヵ月のアメリカ留学に羽田空港を旅立った.だがこれが日本への半永久的な別れとなることは想像さえもしなかったことである.

 飛行機は日本航空のDC6Bで60人乗り(最近のJAL広報によれば40人乗り),4発の最新型.勿論プロペラ機である.今のジャンボと違って,座席は通路を挟んで,片側2席づつ.しかし狭くて,前との間隔も余りなかった.途中の詳細はここでは割愛するが,南大平洋赤道近くの小島,ウェーキ島に降りて給油.乗客も降りて,米軍のかまぼこ型兵舎食堂で朝食.降りる前に日本人の機長が,「日本人はここまでしか操縦を許されていません.ここからは米人の機長に交替を致します.皆様有難うございました.」と皆に挨拶をした.背の高い,そして日本の誇りを背負っているといった自信に満ちた立派な顔立ちの機長だった.外国であれば,そして今の日本であれぱ皆拍手しただろうが,当時の乗客はただ神妙な顔をしてだまってうなずいていた.(集団が黙って何も反応を示さないのは外国人には非常に薄気味悪いらしい.このことはまた後でふれる).

 朝食は各種卵料理,シリアル,ホットケーキ,色とりどりのパンや果物,ジュース,コーヒー,紅茶,ココア等々で,現在のちょっとしたホテルで出されるバフェー(日本では通称バイキング)ブレックファストと同様である.今では読者諸子には何も珍しくもないものだが,当時まだ一般にそれほど余裕のなかった日本ではこのようなご馳走を,しかも朝食に並べられたことはない.たとえ太平洋の離れ小島のウェーキ島勤務ということで米国本土より少しは待遇が良かったのかも知れないが,とにかくこれが普通の兵隊の食事と聞いて驚き,また感心もした.ウエーキ島の次の給油地のホノルルまで何時間かかったか,とにかく機中で昼食がでた.どんなものが出たかは全く記憶にないが,日本で普通に見る物よりは豪華だったことは確かである。

 現地時間の2月5日夜に着き、ここで乗員、乗客の入国審査があった.まず検疫所を通る.現在とは全く違って,特に私のような長期滞在者には少なくとも形式だけはなかなかやかましかった.最初に,検疫官に日本で受けたスモール・ポックス予防注射証明の手帳と健康診断書を見せてスタンプを押して貰い,次に胸部レントゲン写真を渡す.これは大形の写真で絶対に折ってはいけないと予め注意があった.私の前にいた女牲はこれを折っていたらしく,物すごい顔でにらみつけられていたが,これが男性の私であったら怒鳴られていたに違いないと一応感心した.レントゲン写真は,結核罹病者を米国内に入れないためであろうが,診断書があるのになぜ写真が必要かわからなかった.しかも,丁寧に見るわけでもなく,ちょつと見て直ぐ返されたから,このための時間と費用(指定の大学病院,私の場合は名古屋大学で殆ど1日がかり)を考えると全く馬鹿らしかった.その後は,移民局係官がHow are you?と無表情ではあったが挨拶してくれたが,私はI am very sleepyと答えた.これが米国での始めての会話であった.

 パスポート・ヴィザのチェックも無事にすみ,滞在許可期限のスタンプを貰い,税関審査.私も,他の殆どの乗客も,ビニールの大きなスーツケース1個と小さなフライト・バッグ1個だけだったが,全部あけて検査を受ける.中身は,お土産としての小さな人形が数個と自分の衣類だけ.その為でもあったろうか大したこともなく無事通過した.緊張の入国審査がすんで,あとは係員の案内で,空港のレストランで夕食.それまで見たこともない大きな,量のたっぷりあるチキン・フライを二世の日航職員に勧められいっぱい食べた.それからの記憶は無いが,とにかく,サンフランシスコ空港に着いたのは現地時間2月6日朝10時頃で,羽田を出発してから約39時間後であった.ノンストップ,9時間半位で着いてしまう今と比べると全く嘘のような話だが,途中,熱帯・亜熱帯の島に降りて珍しいものを見,そこでご馳走が出されるというフライトはもう将来味わうことは不可能な懐かしい体験であった.

 サンフランシスコからは,翌朝TWA航空のスーパー・コニーと呼ばれる4発のロッキード・スーパー・コンステレーシヨン(プロペラ機)に乗つた.これは機首がとがっていて方向柁が三枚あるスマートな新鋭機でニューヨークまでノン・ストップで8時間で飛んだ.なかなか快適な飛行だった.私の隣の席には若い学生らしい男性が座っていたが,少し話しているうちにお互いに地質関係の研究室出身ということが解り,「ヤーヤーこれは奇遇」と握手した.Great SaltLake,Saltlake City上空を通過し,ロッキー山脈を越えた時などは彼に随分くわしく説明してもらった.

 お昼になると,スチューアデスが大きなサンドイッチを25セントで売りに来る.日本ではサンドイッチといえば,耳を切り揃えた小さなものだが,ここで見たのはスライスした食パンそのままにハム,チーズ,レタス,トマトなどがはさんであって,大きく,またおいしかった.(以後今日までアメリカでは日本式のサンドイッチは見たことがない.)コーヒーはサービス.しかし,ランチを買っている人は余りなく,弁当持参の人達が割に多かった様だった.隣の学生も他の客も生のにんじんやセロリーをカリカリ音を立ててかじっていてはじめは何か異様な感じがした.しかしこれもその日からずっと今日までアメリカじゅう,大学といわず,町なかといわず,何処で見られる風景である.

 そのころは長距離の飛行中,機長は時々操縦を副操縦士に委せて客席にきて色いろと話しかけたり,質間に応じたりした.私にも話しかけてくれた.ニューヨークで観光かなどと聞いたような気がする.とにかく私には生まれて始めての,長距離の昼間の外国飛行で全て珍しく,8時間の間全く退屈はしなかった.ニューヨークのアイデル・ワイルド(今のケネデイー)空港には午後7時頃着く予定で順調良く飛んできたが,空港・上空近くにくるとtraffic congestionとかで離陸,着陸の飛行機がいっぱいで,着陸許可が降りるまで30分位旋回していた.この時間は大変長いように感じた.そのうちにいきなり急降下が始まってあっという間にて降りてしまった.そのころからアメリカでは既に上空の混雑は起こっていたのである.

【次号につづく】



書 評

『フィールドジオロジー入門』
日本地質学会フィールドジオロジー刊行委員会編
天野一男・秋山雅彦 著 共立出版 ISBN4-320-04681-1
 分析機器や解析技術の急遠な発展に伴って,「山を歩かない地質屋」が増えてきた。「木を見て森を見ない」生態学者は言うに及ばず,生物の名前を知らない生物学者すらいると聞くから,地質学の世界でも時代の趨勢なのかも知れない.

 しかし,最近では「山が歩けない地質屋」が増えてきた,ということを耳にする.これでは地質学そのものが成り立たなくなってしまう.本書は,山が歩ける地質屋を創るために,野外における地質の見方を基礎からわかりやすく解説した待望のテキストである.全体は4部構成になっており,「A.概説編」では野外科学としての地質学を明快に位置づけた後,フイールドに出かける前の準備について,服装や道具.保険に至るまで丁寧に書かれている.

 「B.実践編」では,地形図.地質図の読み方から,走向・傾斜のはかり方やスケッチの仕方など露頭の前で必ず行うことについて,図や写真を数多く使いながらわかりやすく解説している.とくに,沢を歩く場合の危険防止のための注意事項や露頭観察する場合に地元の人や関係機関に挨拶をして許可を得る,といった調査時のモラルについてもきちんと書かれていることは著者らの教育経験に基づく様々な思いが本音に託されていると拝察した.

 「C.結果のまとめと情報の発信」ではデータの整理の方法にふれた後,OHPやPower Pointを使った口頭発表の仕方,卒論やコンサル業界での報告書のまとめ方について重要なポイントをおさえて解説してある.最後の「D.用語解説,文献」は,簡単ではあるが地質学の基本概念について図表入りで解説してあり,単なる付録以上の意味がある.

 文章は平易で,地質学を初めて学ぶ者には絶好の入門書である.同時に,山を歩かなくなった地質屋にとっても,本書を読めば,かって露頭を前に胸をときめかせ,大自然の謎解きに夢をはせたあの往年の感覚がよみがえり,また「山を歩きたい」という気持ちにさせてくれるに違いない.

 なお,本シリーズとしては「フィールドジオロジー入門」にひきつづいて,「堆積物と堆積岩」「変成・変形作用」の2つの巻も刊行されている.最終的には全部で9巻の野外地質学のテキスト群となり,これらを順次刊行していく計画であると聞く.地質学の普及にとっても,後継者養成にとっても非常に有効であり,大いに期待できる.
【島根大学・高安克己】


−化石の特別展示情報−
2004年7月〜

◆ミュージアムパーク茨城県自然博物館
  特別企画展「恐竜たちの足音が聞こえる一中国そして日本」

  7月17日-11月14日
 
◆群馬県立自然史博物館
 第22回企画展「海の王者サメ」 

  7月17日-9月5日

◆栃木県立博物館企画展
 「脊椎動物の進化一5億年の旅一」

  7月17日-9月12日

 テーマ展「栃木県の脊椎動物化石」
  7月10日-3月31日

群馬県立自然史博物館
  第22回企画展「海の王者サメ」

  7月17日-9月5日


◆神奈川県立生命の星・地球博物館
  特別展「東洋のガラパゴス小笠原一固有生物の魅力とその危機一」

  7月17日-10月31日

◆立山カルデラ砂防博物館
  「大地の傷あと一地震と断層一」

  7月31日-9月12日


◆福井県立恐竜博物館
  恐竜大陸の6億年一恐竜の里、浙江省の化石たち

  7月10日-9月5日


◆光記念館
  企画展「恐竜展-恐竜たちの鼓動が聞こえる-」

  5月29日-9月5日


◆豊科町郷土博物館
  「化石は語る一とよしなはむかし海だった」

  7月24日-8月29日

◆瑞浪市化石博物館
  特別展「30年のあゆみ」

  6月13日-8月29日

◆東海大学海洋科学博物館
  特別展「サメ大博覧会一メガマウスザメがやってきた!」

  7月17日-8月31日

◆豊橋市自然史博物館
  「恐竜後の世界一よみがえる新生代の生きものたち」

  7月16日-9月12日


◆鳥羽水族館
  特別展ポーンズ博土のホネ研究所「わしや戻ったゾ!」

  2月14日-11月7日


◆大阪市立自然史博物館
  特別展「貝一その魅力とふしぎ」

  7月17日-9月5日
  
地球上のさまざまな環境に生息している色彩や形の変化に富んだ貝の標本など一約1,200点を展示し,貝の進化をたどるとともに,食用貝、貝細工,貝遊びなど,人と貝の関わりを紹介します。また,今回の特別展では、江戸時代の貴重な貝コレクションである「木村兼葭堂(けんかどう)貝石(ばいせき)標本」(大阪府指定有形文化財、平成9年2月3日指定)を公開します。本コレクションは、江戸時代中期の大坂が生んだ偉大な本草学者である木村兼葭堂の貝と石の標本コレクションです.
会期:平成16年7月17日(土)〜9月5日(日)
会場:大阪市立自然史博物館ネイチャーホール(花と緑と自然の情報センター2階)
入場料:大人500円,高・大学生400円.(30名以上は団体割引あり)
http://www.mus-nh.city.osaka.jp/

◆愛媛県立博物館
  特別展「地震」

  7月31日-8月19日


◆愛媛県総合科学博物館
  特別展「すごいぞ!むかしの生きもの-化石でたどる動物の進化-」

  7月10日-8月31日

◆佐賀県立宇宙科学館
  夏休み特別企画「恐竜」

  7月13日-8月31日


 上記の情報は,日本博物館協会発行の「博物館研究」,全国科学博物館協議会発行の「全科協ニュース」から化石・地学関係を集めたものです.




寄贈雑誌

○Hayashibara Museum of Natural Science Resarch Bulletin vol. 2, no.2, 2004.
  • Suzuki, shigeru; Narmandhkh, pagam: Change of the Cretaceous turtle faunas in Mongolia. 7-14.
  • Watabe, Mahito: New dinosaur ovifauna from the Upper Cretaceous vertebrate fossil locality, Abdrant Nuru, Center part of the Gobi desert, Mongolia. 15-27.
  • Watabe, Mahito, Sonoda, Takeharu, Tsogtbaatar, Khishigjav: The Monolith - a method for excavation of large-sized dinosaur skeletons. 29-43.
  • Watabe, Mahito, Tsogtbaatar, Khishigjav: Report on the Japam - Mongolia Joint Paleontological Expedition to the Gobi desert, 2000. 45-67.
  • Watabe, Mahito, Tsogtbaatar, Khishigjav,Ichinnorov, Niiden, Barsbold, Rinchen: Report on the Japam - Mongolia Joint Paleontological Expedition to the Gobi desert, 2001. 69 -96.
  • Watabe, Mahito, Tsogtbaatar, Khishigjav, Uranbileg, Luwsantseden, Gereltsetseg, Lkhagwa: Report on the Japam - Mongolia Joint Paleontological Expedition to the Gobi desert, 2002. 97-122.
  • Tsogtbaatar, Khishigjav: Fossil specimens prepared in Mongolian paleontological Center 1993 - 2001. 123-132.
  • Tsogtbaatar, Khishigjav, Watabe, Mahito: New paleontological laboratory of the Mongokian Paleontological Center, Mongolian Academy of Sciences in Ulaanbaatar. 129-132.
  • Watabe, Mahito, Suzuki, Shigeru: The list of publications and presentations on the results of Hayashibara Museum of Natural Science and Mongolian Paleontological Center Joint Paleontological Expedition: 2000 - 2002. 133-134.

○Kobayashi, I. And Ozawa, H.: Biomineralization (BIOM 2001) - formation, diversity, evolution and application. Tokai University Press. 399pp.
  1. Plenary and special lectures
  2. Evolution
  3. Regulation
  4. Crystallization
  5. Microbes, environment and biorhythum
  6. Bones and teeth
*各章には6−20編の論文ありますが紙面の都合で掲載できません.
   


第122回 化石研究会例会ご案内

 ■日時:11月6日(土)午後1時〜7日(日)午後3時まで
 ■場所:鶴見大学(横浜市鶴見区鶴見)
 ■内容:
今回は特別講演のみとなります.現在講演者と交渉中です.
       詳しいスケジュールなどは次号化石研ニュース,ホームページで連絡します.



化石研ニュース No.88 04・7・25
編集・発行:化石研究会事務局 〒525-0001
滋賀県草津市下物町1091番地
滋賀県立琵琶湖博物館 地学研究室内
TEL. 077-568-4828 FAX. 077-568-4850
http : //www.kaseki.jp







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