化石研ニュース
No. 91

最終更新日:2005年5月14日

   
2005年4月25日発行



第23回総会・学術大会のお知らせ

第23回(通算123回)総会・学術大会を下記の通り開催いたします.
今回は,京都駅からJR奈良線にのれば約15分で会場に着くという京都教育大学で開催いたします.
付近には秀吉の居城であった伏見城をはじめ歴史的に縁の深い場所も多くあります.
多くの会員のご参加を期待しております.

 日時:6月4日(土)〜5日(日)
会場:京都教育大学(藤森キャンパス)F棟1階
日程
6月4日(土)
11時00分〜14時00分 運営委員会
14時30分〜18時05分 シンポジウム「日本の長鼻類化石の研究はどこまで進んだか」
18時30分〜  京都教育大学内にて懇親会 

6月5日(日)
 9時30分〜11時05分 一般講演
11時10分〜12時10分 総 会
12時10分〜14時15分 昼 食・京都教育大学オープン・エア・
ミュージアム見学
14時30分〜16時10分 一般講演
16時10分        閉会




学術大会プログラム

6月4日(土)
午後14時30分〜18時05分

シンポジウム「日本の長鼻類化石の研究はどこまで進んだか」

1991年に亀井節夫編著『日本の長鼻類化石』が出版されてからすでに14年間が経過しました.この間,長鼻類化石のそれぞれの分類群で研究が進み新たな成果がでています.このシンポジウムでは,日本の新生代の地史や脊椎動物の進化を考えるうえで大変重要な役割をもつ長鼻類化石の最近の研究をとりあげます.

14:30 ステゴドンの北限−長鼻類化石の研究史との関係で
 (亀井節夫,京都大学名誉教授)
14:55 エチオピア産レッキゾウの研究過程で実感した日本産ゾウ化石の重要性
 (三枝春生,兵庫県立人と自然の博物館)
15:20 ゾウの進化の過程は日本でのステゴドンの研究からわかるのか
 (小泉明裕,飯田市美術博物館)
15:45 コメント:関東産のアケボノゾウ類似種の形態研究からのコメント
 (樽 創,神奈川県立生命の星・地球博物館)
   コメント:多賀町のアケボノゾウの形態研究からのコメント
 (小西省吾,みなくち子どもの森自然館)

16:15 休憩

16:25 中国のムカシマンモスの研究でわかったことと,今後の課題
 (樽野博幸,大阪市立自然史博物館)
16:50 こまでわかったナウマンゾウの研究,今後何をどうすべきか
 (近藤洋一,野尻湖ナウマンゾウ博物館)
17:15 日本のマンモスゾウ研究のもつ意義
 (高橋啓一,滋賀県立琵琶湖博物館)
17:40 長鼻類化石の研究と微細構造
 (神谷英利,京都大学大学院理学研究科)
18:05 閉会

【発表時間は20分(コメントは15分以内)で質問5分(コメントはなし)】

6月5日(日)
一般講演(発表時間15分,質疑応答10分)

◆9:30 「軟体動物殻体再生過程の生化学的解析」・・・小川崇・原田真帆・佐俣哲郎(麻布大学環境保健学研究科)
◆9:55 「硬骨魚類のカラーエナメル質について(仮題)」・・・笹川一郎、石山巳喜夫(日本歯科大学新潟歯学部)
◆10:20「板鰓類の歯の進化と適応−日本産の化石資料を中心に」・・・後藤仁敏(鶴見大学短期大学部歯科衛生科)
◆10:45「千葉県山田町志高に露出する中部更新統八日市場層の生痕化石群集」・・・
小幡喜一(埼玉県立熊谷高)・平社定夫(埼玉県立岩槻高)・石田吉明(東京都立千歳丘高)・菊地隆男(立正大)・金 光男((株)協栄)・草野未緒(立正大)・黒川 彰(千葉県立天羽高)・楠 恵子(千葉県立国分高)・小川政之(東京都立足立東高)・大森昌衛(元・麻布大)・長田敏明(杉並区立荏原第三中)・
三谷 豊(千葉県立船橋法典高)

11:10 総会

12:10 昼食・京都教育大学オープン・エア・ミュージアム見学
14:15 
◆14:30「大分県安心院町から発見されたミエゾウの頭骨化石」・・・高橋啓一・里口保文・大橋正敏(琵琶湖博物館)・北林栄一(玖珠町立森中学校)・大坪進吾(宇佐市教育委員会)
◆14:55「ヒトの臼歯の歯根分岐部に一過性に生じる象牙質島の石灰面の形状について」・・・小寺春人(鶴見大学歯学部解剖学教室)
◆15:20「ヒトの大臼歯の最深層エナメル質の組織構造と元素組成に関する進化学的考察」・・・高橋正志(日本歯科大学新潟短期大学),後藤真一(日本歯科大学新潟
     歯学部)
◆15:45「備北層群塩町層から発見されたヒシ科新属化石」・・・塚腰 実・岡本素治(大阪市立自然史博物館)・寺岡明文(呉市)・山崎博史(広島大学大学院教育学研究科)
16:10 閉会


(交通)
●京都駅から:JR奈良線(主に10番線から発車、8,9番線のこともある)の各 駅停車の電車で3つ目の「JR藤森」下車(所要時間7分)、駅の出口を出て右手に まっすぐ徒歩3分。快速電車は停まらないので注意。

●大阪方面から:京阪電車「墨染」下車、徒歩6〜7分。大阪方面からの特急、急行利 用の場合には「丹波橋」で準急に乗り換え、1つ目の「墨染」で降りて下さい。


伏見の地質と歴史めぐり
 総会が開催される京都教育大学周辺には多くの歴史や地質と関連した場所があります.お時間の許す限り見学してみてはどうでしょうか.

「藤森神社」:大学のすぐそば.神巧皇后が凱旋したときにこの地に旗をたて,兵器を埋めたのが起こりと伝えられる.勝運と学問の神社として信仰が深い.5月5日の節句の発祥地と言われている.
「清涼院」:もとは伏見城内の北面,御花畑山荘の御殿であった.徳川家康の第9子尾張大納言義直はこの地に誕生した.

「桓武天皇柏原稜」:784年に長岡京に,794年に平安京に遷都した桓武天皇の陵墓.伏見城築城の際に,壊されたが安政年間に旧稜跡が発見された.

「乃木神社」:日露戦争の司令官 乃木希典将軍を祀る.参堂は閑静な散歩道.

「明治天皇桃山稜」:陵墓の形は上円下方墳.外装は光沢のある小豆島の砂礫で覆われている.旧伏見城跡に設けられた.

「月桂冠大倉記念館」:昔のままの土蔵造りの建物を使って350年の酒造りの歴史を紹介.

「寺田屋」:竜馬の常宿.1866年に幕使に囲まれ襲われる.竜馬の泊まっていた部屋が今も残る.

「御香宮神社」:その名は,今から1100年ほど前に境内から「香」のよい水が湧き出たのに由来.「名水100選」のひとつに選ばれている.このような良質の水があることから,伏見は酒どころとなった.酒造りのための水は深さ50〜130メートルの砂礫層から汲み上げられている.伏見の酒は灘の酒に比べてまろやかと言われているが,これは地下水に含まれるカルシウム,カリウム,ナトリウムなどが少ないため.

「伏見城」:秀吉は伏見に2つの城を造った.はじめは巨椋池に臨む指月城.しかしこの城は1596年の慶長大地震で崩壊し,秀吉は秀頼や淀君とともに命からがら城から逃れた.この地震による被害は甚大で,京都付近だけでも4万5千人と言われている.その後直ちに伏見山に第2の伏見城を造った.この城は,教育大学からよく見える.

「巨椋池(おぐらいけ)」:宇治川(琵琶湖から),木津川(奈良から),桂川(京都市内から)が合流する場所には巨椋池という広大な遊水池が広がっていた.その後,木津川,桂川の流路が西に移ったり,また豊臣秀吉が伏見城を築いたときに,宇治川の流路を北側に迂回させたため池は孤立した.昭和7年からは,10年間の月日をかけて食糧増産のために干拓がおこなわれこの池は姿を消した.この巨椋池で行なわれたボーリング調査では,更新世末期から現在に至る環境変遷が調べられた.今もこの池に関係する地名が多く残る.

「トウヨウゾウの化石」:京都教育大学の北側の深草丘陵からはトウヨウゾウの臼歯化石が発見されている.深草丘陵には大阪層群の4枚の海成粘土層がみられ,間氷期にこの付近にまで大阪湾が侵入したことがわかる.臼歯化石が発見されたのは,淡水成の粘土層の中からで約50万年前のものとされている.化石の実物は京都大学で保管されているが,レプリカは京都教育大学でみることができる.




化石の特別展

■国立科学博物館特別展「恐竜博2005‐恐竜から鳥への進化‐」3月19日〜6月12日

■愛・地球博(愛知万博)愛知県名古屋東部丘陵で3月25日〜9月25日マンモスラボ(グローバルハウスの中)では,シベリアの永久凍土から発掘された冷凍マンモスが展示されている.アフリカ共同館(グローバル・コモン5)では,最古のホモサピエンス関連の展示がある.

■兵庫県立人と白然の博物館企画展「神戸の植物化石‐堀治三郎・高岡得太郎コレクション展‐」3月12日〜6月12日

■愛媛県立博物館テーマ展「愛媛各地の岩石」4月1日〜5月25日

■防府市青少年科学館「モンゴルの恐竜化石」4月22日〜6月5日




本の紹介
原島広至著、河合良訓監修 「骨単」
定価2,730円,株式会社エヌ・ティー・エス.2004年同著者・監修「肉単」,定価2,730円,株式会社エヌ・ティー・エス.

20004年「骨単」は2004年3月に発行され,「肉単」は同年9月に発行された.最近の医学及び歯学部の学生に人気がある本である.本書は語源(ギリシア語,ラテン語)から覚える解剖学英単語集である.単語集であるが,その語源は意外と知られていないものもあり,学生以外のヒトの体に興味のある化石研究会会員にも本書を手にとり,読んでいくと興味を持つと思われる.

言葉の奥にある歴史にふれて,専門用語に親しみがわいてくる.最近の学生は日本語の漢字,特に専門用語が読めないため,日本語の専門用語にはすべてふりがながついている.専門外の方にもイラストつきであるので,わかりやすくなっている.著書は医学や歯学とは関係ないデザイナーであるためか,立体的な図が各ぺ一ジにあり,理解しやすいようになっている.イラストが多数あるというのも,いまの時代を反映しているかもしれない.

20年前ではこのような本が売れなかったと思われる.鐵灸,カイロ,介護,リハビリなどの専門学校の学生にも購入してもらえるように工夫している.第3弾「脳単」,第4弾「臓単」が企画されている.

(三島弘幸)



随想
『アメリカ大学研究生活46年』(5)


南カロライナ大学 名誉教授 渡部哲光

今と比べると,日本を出てから全くのんびりと数10時問をかけてアメリカに到着したので,時差惚けなどはなかったから,眠くもなく,緊張のためか元気で,その後直ちに研究の打ち合せを行った.教授にお前はどんな研究がしたいかと聞かれたが,勿論約束通りにカキ貝殻内表面の微細構造の電子顕微鏡的研究をする目的で来たのだからそれをしたいと答えたが,そのために私を呼んでおいて,不思義なことを聞くものだと思った.それはともかく,話は簡単に済んで早速実験に取り掛かった.材料のアメリカガキCrassostrea virginica貝殻は既に揃っていたし,手法は別に新しいものでなく,日本で使用していたいわゆる2段レプリカ法を用いて表面構造観察を行うことに話は一致したので,問題もなかった.

レプリカ法は走査型電顕が普及している現在では殆ど使われていないが,当時はそれ以前の時代であって,表面微細構造の観察には唯一のものであった.プラスチック薄片に表面の‘鋳型’を作り,これに金属(クロミウム)を斜方向から蒸着して影を付け,さらにその上にカーボン膜を蒸着する.それを酢酸アミル液に漬けてプラスチックを溶かし,浮かんできたカーボン膜を銅の試料支え(グリッド)にすくいあげる.すくいあげは‘こつ’があって手早くしないと対流が出来て膜は逃げてしまう.慌てると膜が小さく畳まれてしまう.最大の欠点は,膜にコピーされた構造の方向性が全く解らないことである.その日はまず手始めに殻を洗って鋳型,つまリー段目のレプリカを作った.翌日は教授に連れられて少し離れた所にある医学部実験外科・細菌学研究室(Laboratory of Experimenta1 Surgery and Bacterio1ogy)まで歩いて行ってDr. D. Gordon Sharp(シャープ博士)に会い,彼から手製の真空蒸着器の操作を習いながら,持参した一段レプリカに金属やカーボン蒸着を行った.

この試料はそのまま自分の研究室に持ち帰り,カーボン膜をグリッドにすくいあげてその日は一応終わった(と思つた).そしてユニオンのキャフェテリアにでも行って夕食をとり帰宅するつもりでオーバーを持った時に教授が入って来て,「6時半に明日のセミナー講演者のDR. Xと会食する.私が君を連れて行くからそれまでここで待っているように」と言われ,程なくMen's Graduate Center‐男子大学院生寮の食堂に連れて行かれた.集まったのは教師・院生併せて20人位.やがて講演者が奥さん同伴で入ってきた.私はただぼ‐っと座っていたが,気がっくとみんな起立している.そして教授が椅子を引いて奥さんが着席してから,ご主人を合めて全員が着席した.日本人というのは何と礼儀を知らない奴と皆思っただろう,私には全く始めてのことでその時はそれほど大切なこととは思わなかった(注1).

それはともかく,やがて食事が始まったが,その間次々と白己紹介,そして会話が飛び交った.私は食べながら英語を話すことなどとても不可能で,ただ黙々として口を動かしていただけだが,それでも時々“Ted”(私はこう呼ばれるようになっていた)と教授から声が掛かってくるので,全く落ち着いてもいられれず,10時頃下宿に帰った時はさすがにくたくたになっていた.翌朝はEast Canpusを経てチャペルまでバスに乗って研究室に着いた.午後は顕微鏡が使えるというので試料を持ってシャープ研究室に出かけた.

顕微鏡はRCA EMU-2で,試料観察の操作は簡単だったが,鏡体の真空引きは手動で,順序にしたがってバルプ操作をせねばならず,適度の真空に達するには小一時間くらいかかった.真空度はガイスラー管の蛍光発光度に依って判断した.間もなく新型のRCA EMU-3が設置され,これは真空引きには自動バルブ装置が備えられて,便利であり,時間も30分くらいに短縮された.一方,シャープ研究室では両型とも使用者が電子銃や対物レンズを掃除することが義務付けられていたので,専任の助教授から鏡体の分解その他を習い,これは大変勉強になった.写真は2×8インチ(5×20cm)のガラス乾板で1枚に4枚撮れ,現像はその場で行ったが,乾板乾燥後は動物教室で焼付け・引き延ばしをした。


【次号につづく】




化石研ニュース No.91 05・4・25
編集・発行:化石研究会事務局 〒525-0001
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