化石研ニュース
No. 99

最終更新日:2007年8月22日

   
2007年8月10日発行



第128回例会のお知らせ

2007年11月11日(日)に128回例会を下記の通り早稲田大学にて開催します.
詳細は,次号のニュースでお知らせいたします.

日時:2007年11月11日(日)午後1時から
  会場:早稲田大学西早稲田キャンパス22号館203教室
 
テーマ:日本の恐竜研究最前線

内 容:今話題のタンバリュウを始め,日本の恐竜化石に関する旬な話題を
数名の講演者にわかりやすくお話しいただく予定です.

脊椎動物化石の専門家だけでなく最新の恐竜に関する話題に興味のあるかたには
聞き逃せない内容になると思います. (世話人:平山 廉)

 


化石研究会第25回総会・学術大会報告

 6月2日,3日の両日,埼玉県立自然の博物館において第25回総会・学術大会が開催された.2日の午後は公開シンポジュウムが,3日には一般講演15題が行われ,述べ64名が参加した.会場の埼玉県自然の博物館が立地する秩父盆地は,日本地質学発祥の地とも言われ,ヒゲクジラの化石のほか,パレオパラドキシアなど多くの化石が見つかっている.会場にはチチブクジラの頭骨化石の実物標本が展示された.

 公開シンポジュウムは「ヒゲクジラの進化」のテーマのもと,吉田健一氏の主旨説明のほか,澤村寛氏,木村敏之氏,伊藤春香氏らによる講演が行われた.これらの発表は一貫して,ヒゲクジラの進化を,その摂餌様式やヒゲクジラの象徴であるクジラヒゲの獲得に着目したものであった.

 クジラの祖先は元々陸上に生息していた偶蹄類であっため,海に進出したばかりのクジラは当たり前のようではあるが,みな歯クジラであった.その後,ヒゲクジラの仲間はクジラヒゲを獲得し,それによって歯クジラとは異なる餌生物を捕食するようになり,歯クジラとの間にニッチ分化が生じた.そのため,今日のような餌生物の利用に関連した棲み分けが観察されるようになった.

 上記の内容を澤村寛氏がクジラヒゲの獲得に焦点を当て,「中間型」といわれる歯を持つヒゲクジラを例に挙げ,現生種胎児の解剖を行った視点から講演を行った.木村敏之氏はクジラ類の餌のとり方(摂餌様式)に焦点を当て,漸新世から現在に至る北西太平洋におけるクジラ類の分布とその棲み分けについて講演した.そして最後に伊藤春香氏が前の2題の講演の基礎ともいえる,現生のクロミンククジラの解剖,特に下顎の開閉機構についての考察をメインに講演が行った.

 これらの内容は非常に専門的であり,なおかつ最新の研究成果が随所に盛り込まれていたが,3題の講演がそれぞれ強い関連性を持っていたことや,吉田健一氏の趣旨説明によって,話を聞くための基本的な知識や大まかな流れが説明されていたため,比較的抵抗無く内容に入っていけた.そのため,全くクジラについて知識の無いものであっても,最後まで強い興味を持って聞くことが出来たのではないであろうか.

 シンポジュウムの最後には,質疑応答の時間が設けられ,活発に意見が述べられた.特にクジラの下顎の機能とその筋学に関して皆の関心が集まった.

 本シンポジュウムは盛況のまま幕を閉じ,古生物学の研究において,解剖学的手法の有用性と,これからの古生物学研究の新たな道筋を示すような内容であった.まさに様々な分野のスペシャリストが集まっている化石研究会ならではの内容であった.

 翌日行われた一般講演においても,恐竜から女子学生の歯並びまで,非常にバリエーションに富んだ講演が行われた.

 今総会・学術大会の開催にあたっては,埼玉県立自然の博物館のスタッフの皆様に大変お世話になりました.記して厚く御礼申し上げます.  

 (北川博道)



ジャイアント パンダの足の裏

岡村喜明

だいぶ集まった動物の足の裏

 ここ10数年の間に観察した野生動物の手足の裏や足跡,足型のうち熱帯の東南アジアや亜熱帯,国内に生息するものの数が鳥類を含めて100種類近くになった.厳密に言えば,スイギュウやヤクなどはなかなか野生のものは見られないし,動物園でのみのものもあるが.そこで,国内外の足跡図鑑を眺めてみるとアフリカには多い.

東南アジアは動物図鑑の巻末に載せている程度で少ない.唯一タイに足跡図鑑が1冊出ている.たいへん貴重な存在である.国内では数冊あるが種類が少なく,わたしにはあまり役立たない.なんと著者に失礼なと言うかも知れないが,足跡図鑑を見る目的がわたしの場合は,足跡化石の鑑別にあるからで,ケチをつけているのではない.

これら観察し,集めた足跡は,小はネズミ類やヤスデ類,カニ類から大はスマトラサイやアジアゾウまでいろいろあり,そろそろ図鑑を出してはと,周りの人から言われ,その気になってきたのはよいが,下書き原稿をめくっていてジャイアント パンダとレッサーパンダの足の裏や足跡がない.これはぜひとも入れておかないと言うことになった.
 
四川省の臥龍へ行け

 中国を代表するマスコット的ないわゆるパンダは,国内でも見られるし,頼めば足の裏くらいは撮影できるだろう.でも,粘土で足型を取るとなるとちょっと難しいかも.そこで,いつものパターン.上海の友人に相談してみた.友人のひとりはかの有名な上海雑技団でパンダやトラの調教,曲芸をしていた陸さん,そして,あとは上海動物園でパンダを飼育していた陳さん,その先輩で同じくハルビンの大学の先輩でパンダの生態を研究していた楊さん.3方の言うには,それはもう臥龍に行くしかない.

頼んでやろうと.関空から上海へ,そこから国内線で成都へ飛んだ.成都の西蔵飯店の飾りつけはチベット風.市内にはパンダ繁育研究基地と動物園がある.まずは,臥龍のパンダ保護研究中心がメインなので,ここは帰路に寄ることにした.結果は,パンダ意外は面白かったが,パンダはやはり臥龍が勝る.
 
パンダの足の裏は毛むくじゃら

 成都からタクシーで飛ばすこと4時間強,工事と難路で運ちゃんもグロッキーになるくらい.車も相当痛んだようだったのでチップをはずんだ.臥龍にはパンダセンターの近くにも山荘があるが,われわれは車で20分くらい上流の臥龍山荘で体を休めた.ここは標高2000メートル以上で涼しいし,近くにパンダ博物館があるので便利.ただ毎日車でセンターまで往復せねばならない.

パンダセンターには連絡していたので李 偉さんが出迎えてくれた.さっそくいつものように,わたしの研究テーマである国内の足跡化石の代表的なもの長鼻類,奇蹄類,偶蹄類,爬虫類,トリ類などを見せて,これらの解析のために現生の動物の足跡を集めているので,ぜひパンダの足跡を観察したいと頼む.しかし,残念ながらここにいるベビーから成獣まで約60頭は草ややや硬い泥上にいるので足跡はむずかしいとのこと.そこで,2個のタッパ−に入れて持参した陶土に前後の足を押しつけることにした.

はじめ1才の個体を候補にあげてくれたが,弁当箱が小さすぎた.仕方なく10ヶ月,♀の翠翠になった.東南アジアでみたマレーグマや日本のツキノワグマの手足の裏には毛が少なく足跡も比較的よくつくが,パンダでは毛があるので型がなかなか深くつきにくい.と言ってあまりきつく抑えて暴れると困るし,いい加減の圧力で押さえた.成功した.トランクに入れて持って帰るまでに変形するとだめなので,山荘へ戻ってさっそく上層に石膏を流し込み固めておいた.
 
上海で祝杯を

 臥龍から成都までは相変わらず悪路.その上に工事により交互通行で,降りは5時間以上かかった.成都は臥龍と違い平地で暑い.悪路と暑さで家内もわたしもガイドもクタクタ.でも動物園とパンダ繁育基地は行った.ここのことは疲れていたのと紙面の都合で詳細は省く.上海では,動物園と野生動物園を見て回った.何度か行っているが,だんだんと訪れる人が少ない感じがした.

ただ面白いのはふたつの動物園内のレストランではカエルは言うに及ばずラクダやシカやイノシシ,キツネ肉の料理が食える.いつも何か新しいものに挑戦しているが,今回はメニューに書いていたワニの手の煮込みがない.残念.そこでラクダとキツネを食した.味はよかった.

夜は2晩にわたって中華料理で陸さん家族,陳さんと彼女,楊さん,ガイド,われわれでいろんなものを食べつくした.四川の坦坦麺やマーボ豆腐はむちゃくちゃ辛かったので,上海の料理は薄味に感じてわたしにはおいしかった.9日間の旅はあっと言う間に過ぎた.

今回はジャイアント パンダの足型がとれたので大成功であった.レッサーパンダを含めた自然の足跡の写真も送ってやろうと約束してくれたので,それが来れば足跡図鑑の出版も間近.このニュースが発行されるころには,わたしはタイで詰めの観察を終了していることでしょう.




知って得する話題

CTデータからの実体模型の作成

 CTなどの二次元連続断層画像のデータから、石膏を素材とした立体模型を作成することができる。とは言え、自分で作成するのはなく、業者(下記)への依頼による。CTは通常の医療用の機器でも、研究用のマイクロCTからのデータでも可能で、小さい化石から大きな模型を、またその反対も作成することが可能である。頭蓋骨の場合、頭蓋腔内や鼻腔内の構造も再現される。模型作成の原理はインクジェット・プリンターからインクのかわりに水を出して石膏パウダーを硬化させるらしい。ちなみに筆者の頭蓋骨の模型を作成したが、できばえは十分に満足できるものである(写真参照)。この頭蓋骨模型1個の作成費は約6万である。

作製会社:株式会社レキシー。
電話03-5802-7235
URL:http://www.lexi.co.jp

 (小寺春人)



☆学会・シンポジウムのご案内☆

★16th International Congress of Anthropological and Ethnological Sciences
Entitle: Advances in Dental Anthropology: Genetic and Environmental
Factors. (Kunming, China, July 15-23, 2008)
 詳しくはホームページ: http://www.icaes2008.org/enindex.htm

★Second International Society of Zoological Sciences Symposium in Beijing
(Beijing, China, December 8-10 2007)
 詳しくはホームページ:http://www.globalzoology.org
(三島弘幸)

★エナメル質比較発生懇話会
 9月21日・22日,東京医科歯科大学「エナメル質の総括と展望−日本のエナメル研究者からー」
 締切8月31日 詳しくはacbte(a)nihon-u.ac.jpへ  



書 評

「退化」の進化学
犬塚則久著、講談社、新書版、206頁、
2006年12月20日発行、本体820円+税

 本のタイトルからは、進化には退化が伴うという意味と、特殊化した生物が退行、退化により適応・分化能力を回復するといった意味の両方が想起されるが、この本は前者の意味の退化である。ウマの足は第三指が特別に発達するかわりに他の指が退化することで、ウマは進化した。つまり「退化は進化の一部」だという。この見方から人体を見わたすなら、並列的に見えていた構造が、生物進化の一大ドラマの中に浮かび上がってくるであろう。その様子がこの本には描かれている。

 では、その方法論は何か。それは古生物学(化石)と比較解剖学である。たとえば頭蓋の眉弓は原人の眼窩上隆起の退化物であることが化石からわかる。しかし多くの軟組織は化石に残らないので、現生する動物の比較解剖学が武器となる。たとえば「虫垂はヒトやチンパンジーにはあるが、ヒヒやニホンザルなどにはみられない。類人猿は三○○○万年前に出現したので、その頃から盲腸が退化して虫垂ができた」というわけである。

 ヒトの先祖が上陸した4億年前からはじまり、哺乳類になり、サルになり、そして類人猿から人類進化にいたる過程を4章に区分して、人体各器官の退化過程が展開されている。あつかっている器官や構造には耳小骨あり心臓あり、横口蓋ヒダ、松果体、腓骨、乳腺、子宮、半月ヒダ、中心骨、錐体筋、足底筋、インカ骨、毛、歯などなど、面白そうなところが網羅されている。

 舌の下面にある采状ヒダがキツネザルの下舌というものの名残だとは、西成甫の『人体解剖学』にも書かれているが、これが単なるヒダでなく独立したぎざぎざのある突起であることや、ツパイにもあること、テナガザルでは胎児のみあること、そして日本人では4人に一人は欠けているなど、じつに詳細に調べ尽くされている。そこが面白い。

 日本の解剖学には西成甫にはじまる比較解剖学の根強い伝統があるが、その多くは筋や神経、血管の類型解剖学の傾向が強く、また、あまりにも細分化された専門家の世界になっており、一般普及書のたぐいは生まれなかった。その点で本書は解剖学の面白さの真髄を知るのに、とてもよい本といえよう。いきなり解剖用語がでてくるなど、一般読者にとってはいささか難しいと思われるところがあるが、一方でわずらわしい説明ぬきで楽しめることと思う。古生物学、人類学、解剖学を学ぶのに最適な本の一つである。

(小寺春人)




各地の博物館特別展

■北東北三県共同展「北東北自然史博物館-大地と生きものふしぎ旅行」
 北東北の地質と生物を過去から現在まで豊富な資料で紹介。
 秋田県立博物館 7/27〜9/2,岩手県立博物館 9/22〜11/11

■仙台市科学館「恐竜展−feel the dinosaur」 7/21〜8/26
 恐竜はどんな生態で、なぜその生態がわかったのかなどを、ハンズオンで実験し体験する特別展。

■秋田大学工学資源学部附属鉱業博物館「津波の正体にせまる−津波研究の最前線」
 7/28〜9/2 発生の沖から最終の陸上までの主な話題を取り上げ、防災対策を含めて津波研究の最前線を示す.

■日立シビックセンター科学館「恐竜たんけんランド〜恐竜の進化のナゾにせまる!」
 7/21〜8/31

■フォッサマグナミュージアム 「生きている化石腕足類展−知られざる太古の海の成功者−」
 7/14〜8/31

■群馬県立自然史博物館 「アイスエイジ 氷河時代を生きた動物たち」
 7/14〜9/2
 日本にナウマンゾウがいた頃の氷河時代に焦点をあて、生物と氷河時代との関わりを紹介。

■埼玉県立自然の博物館・川の博物館「よみがえる化石動物」
 7/21〜9/2
 埼玉の海や陸に生息した古生物たちの化石を「自然の博物館」と「川の博物館」の2会場で展示。

■千葉県立中央博物館「化石が語る熱帯の海−1600万年前の日本−」
 〜9/2
 新生代第三紀中新世に焦点をあて、その生物相と地史的な背景を多くの化石をもとに紹介

■多摩六都科学館 多摩の化石展「奥多摩から武蔵野台への化石散策」

■神奈川県立生命の星・地球博物館「ナウマンゾウがいた!〜温暖期の神奈川〜」
 7/21〜11/4

■横須賀市自然・人文博物館「日本の恐竜足跡化石」
 4/28〜9/2
■八尾化石資料館海韻館「生命のシンフォニー〜アンモナイト登場そして絶滅〜」
 7/15〜9/30

■豊橋市自然史博物館「ホネホネ大行進−骨学のススメ」
 7/13〜9/9
 骨って美しい。骨っておもしろい。様々な動物の骨格標本が大集合。骨の役割や形の面白さを紹介。

■中津川市鉱物博物館「石に聞こう!20億年のあゆみ−岐阜県の石」
 7/21〜10/28
 日本最古の石や化石から世界で最も新しい花崗岩まで、岐阜県の石をわかりやすく紹介

■岐阜県立博物館「恐竜と生命の大進化−中国雲南5億年の旅−」
 7/6〜9/2

■瑞浪市化石博物館「魚の化石展」
 6/20〜9/2
 アメリカの約4千万年前の地層や、レバノンの約9千万年前の地層から見つかったきれいな魚の化石などを展示します。化石水族館にぜひお越しください。

■ポートメッセ名古屋2号館「−アジア発・世界最新−恐竜大陸」
 7/20〜9/2

■福井県立恐竜博物館「クジラが陸を歩いていた頃−恐竜絶滅後の王者−」
 7/13〜10/8
 (9月12日(水)、26日(水)は休館)
陸上から水中生活への道を選んだクジラの進化の過程と当時の地球環境について紹介。後ろ足があるクジラや歯があるヒゲクジラをはじめ、貴重な標本を世界で初めて一堂に公開。クジラの進化の驚異と圧倒的な大きさを、実物化石を含めた140点の標本から体感しつつ、クジラをじっくりご覧いただけます。

写真は初期のクジラ アンブロケタス

■滋賀県立琵琶湖博物館「琵琶湖のコイ・フナの物語−東アジアの中の湖と人」 7/14〜11/25 コイやフナの進化や人々の生活との関わりを紹介する企画展示

■大阪市立自然史博物館 「世界最大の翼竜展〜恐竜時代の空の支配者〜」
 9/15〜11/25

■北九州市立いのちのたび博物館「世界最大の翼竜展〜恐竜時代の空の支配者〜」
 7/7〜9/2

■天草市立御所浦白亜紀資料館「生きた化石と恐竜」
 7/21〜9/2



【重要なお願い】
 化石研ニュースは次号100号より電子メールで発送することが総会で決定されました.この準備のため,同封しておりますハガキに必要事項をご記入のうえ,お手数ですが事務局まですみやかに返送ください.従来どおり郵送でニュースをお受け取りになることもできますので,電子メールをお使いでない方もご心配には及びません.ご協力をお願いいたします.

■会費の納入をお願いします
2007年度会費の納入をお願いします.
  年会費 4000円(学生2500円)
  郵便振替 00910-5-247262 「化石研究会」
  *3年間会費未納の会員は,除籍となりますのでご注意ください.


化石研ニュース No.97 07/3/8
編集・発行:化石研究会事務局 〒525-0001
滋賀県草津市下物町1091番地
滋賀県立琵琶湖博物館 地学研究室内
TEL. 077-568-4828 FAX. 077-568-4850
http://www.kaseki.jp





Copyright(C) 化石研究会